目次
1.身体拘束とは
身体拘束とは、一時的に高齢者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限のことをいいます。
例えば、ひもや抑制帯などの道具を利用してベッドなど縛ったり、部屋から出られないよう閉じ込めてしまうなど、の行為です。
2.身体拘束を認める3要件
⑴身体拘束は原則禁止
身体拘束に関しては、例えば「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」第11条では、以下のように規定されています。
(指定介護福祉施設サービスの取扱方針)
第11条
4指定介護老人福祉施設は、指定介護福祉施設サービスの提供に当たっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない。
5指定介護老人福祉施設は、前項の身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない。
6指定介護老人福祉施設は、身体的拘束等の適正化を図るため、次に掲げる措置を講じなければならない。
一身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を三月に一回以上開催するとともに、その結果について、介護職員その他の従業者に周知徹底を図ること。
二身体的拘束等の適正化のための指針を整備すること。
三介護職員その他の従業者に対し、身体的拘束等の適正化のための研修を定期的に実施すること。
7指定介護老人福祉施設は、自らその提供する指定介護福祉施設サービスの質の評価を行い、常にその改善を図らなければならない。
(参照元:「指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準」の条文)
すなわち、介護施設では身体拘束が原則禁止されており、仮に行う場合の条件については、その記録や適正化を求めています。
しかも、そもそも身体拘束は、刑法上の犯罪になり得る行為です。
例えば、手足を縛る行為は、刑法上の「逮捕罪」にあたる可能性があり、また、さらに部屋から出られないようにする行為は、「監禁罪」にあたる可能性もあります(刑法220条)。
⑵例外的な3要件
もっとも、身体拘束は、例外的に許容される場合があります。
具体的には、指定介護老人福祉施設の人員、設備及び運営に関する基準にも定められているように、「当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合」であれば、身体拘束は許される場合があります。
この「緊急やむを得ない場合」は、3つの要件に分かれており、
(1)切迫性
(2)非代替性
(3)一時性
という3つの要件を全て満たす場合に、身体拘束が許容されます。
3.身体拘束はなぜ行われてしまうのか
身体拘束が行われてしまう理由は、以下のものが考えられます。
⑴利用者側
介護施設に入所する利用者の多くは、高齢や認知症などの影響で、様々なリスクがあります。
立ち上がりや歩行をするにあたっての転倒のリスク、認知症等の影響による自傷行為のおそれ、点滴を抜いてしまうなどの医療行為の拒否など、利用者本人や他の利用者へもリスクがある行動を取ることがあります。
事業所としては、このような利用者本人や他の利用者へのリスク回避の観点から、身体拘束の実施を行わざるをえない場合があります。
⑵事業者側
上記の利用者側の事情に加え、介護施設は慢性的な人手不足の状況があり、人員基準ぎりぎりの職員の中で業務を行っています。
このような状況で、転倒の恐れがある利用者が立ち上がろうとする、徘徊くせがある利用者が施設外に出ようとする、などの様々な事態に対して、職員はその全てに目を配らせて対応することは実際には困難です。
介護施設の慢性的な人手不足の影響で、身体拘束を行っても仕方ないという雰囲気が発生してしまうことも1つの理由と考えられます。
4.身体拘束の種類
身体拘束の具体的な種類としては、例えば、以下のものが挙げられます。
・厚生労働省「身体拘束ゼロへの手引き」内の身体拘束の種類
①徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
②転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
③自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
④点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
⑤点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
⑥車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車いすテーブルをつける。
⑦立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する。
⑧脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
⑨他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
⑩行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
⑪自分の意思で開けることのできない居室等に隔離する。
そのため、このような行為をする際には、身体拘束に該当する可能性がありますので、要件を満たしているかどうか注意が必要です。
5.身体拘束を防ぐためには
⑴各職員について
身体拘束を防ぐためには、職員の1人1人が、身体拘束は例外的な方法であるということをまず理解することです。
介護の現場で行われる身体拘束は、他の方法をあまり検討することなく、「やむを得ない」と思って簡単に行われていることも多いです。
しかし、身体拘束は、犯罪になり得ますし、また、利用者本人や家族に不安を与えることが大きいものです。
身体拘束が例外的であることを改めて確認して、身体拘束をしない、身体拘束を減らしていくということを職員が理解することが大切です。
(2)事業所について
当然のことですが、職員に任せるだけでは足りず、事業所全体として取り組む必要があります。
①事業所の方針
事業所の方針として、身体拘束禁止の方針を打ち出し、事業所全体へ徹底して伝えていくことが大切です。
②代替方法の検討
身体拘束がやむを得ないと考えても、常に代替方法を検討する必要があります。事業所内で会議を行って、全員で知恵を出しつつ代替方法を探ることが大切です。
➂研修の実施
職員全員への周知のために、研修の実施も必要です。
例えば、弁護士が、法律家の視点から、なぜ身体拘束が原則禁止なのか、禁止である身体拘束を行うことでどのような問題が起こるのかなどを説明したうえで、各職員で考えていただくことで、各職員への意識づけができると思います。
身体拘束廃止に向けて取り組んでいる事業所の皆様は、ぜひ、弁護士による研修の取り入れを検討してみてください。