目次
第1 はじめに
成年後見制度の中で、市町村長申立て、という制度をご存じでしょうか。
市長などの名前で成年後見を申し立てるという制度で、親族がいない方などのケースで利用できる制度となります。
今回は、当事務所で支援した、市町村長申立成年後見申立ての具体的な事例を紹介し、ケースにおける対応方法について解説します。
第2 身寄りのない高齢者のケース
1 申立てに至る経緯
Aさん(80歳代の女性)で、独居の方ですが、認知症の症状が顕著になり、徘徊や物忘れがひどくなっており、近隣住民の方が心配していました。
具体的には、近隣住民から、本人が自宅周辺を徘徊していると相談が市役所に相談されました。そのうえで、地域包括支援センターの職員が訪問したところ、本人は自身の名前や住所を曖昧にしか答えられず、自宅の中も荒れている様子でした。また、本人の自宅の電気やガスなどの公共料金が滞納されており、生活状況が著しく悪化していることが判明しました。
上記のような状況から、本人は自身の財産管理や日常生活における契約行為等を適切に行うことが困難な状態にありました。そこで、現状では、一人暮らしでの生活が困難であり、本人の生命身体への不利益が生じる可能性が高いと判断いたしました。
弁護士も本人と面談しましたが、本人の判断能力の低下は著しく、成年後見制度の利用が必要と考えられましたが、本人には、身寄りがない様子で、身近な親族による後見開始の申立ては期待できない状況です。
2 市長申立て
親族による成年後見申立てができないため、役所に相談したところ、市長申立ての方法を取る方向となりました。
戸籍謄本などの必要書類については、役所のほうで収集し、親族が全くいないかどうかなどについて、調査しました。
その後、必要書類がそろった後、市長申立という形で、家庭裁判所に成年後見人の申立てを行いました。
3 申立費用について
市長申立ては、市町村長申立てのため、費用は公費負担となります。
第3 弁護士の関わり
このケースでは、地域包括支援センターからの要望もあり、地域包括支援センターの職員と一緒に、弁護士がAさんの自宅を訪問しました。そして、Aさんと実際にお会いして、Aさんの状況を聴きつつ、成年後見制度について説明をしました。もっとも、判断能力の低下が著しく、何度説明しても、成年後見制度についてなかなか理解が得られない様子でしたので、成年後見制度の説明には苦労しました。
第4 最近の市長村長申立てについて
元々は利用に抑制的と感じられた市町村長申立ですが、令和4年3月25日に第二期成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定されたなど、最近の成年後見制度利用の進展から、最近では市町村長申立てについて、個人的な感覚ではありますが、役所が積極的になっていると感じています。
そのため、市町村長申立てについて役所が積極的に動いていただけるので、市町村長申立ての利用が進んでいると思われます。
また、市長村長申立てのイメージとして、実際の申立までの準備に時間がかかり、成年後見人が就任するまでに時間がかかるという印象もありました。しかし、最近では、申立てまでの準備期間も短くなっていると聞いていますので、比較的短時間で市町村長申立てがなされている印象があります。
高齢者問題に関わる弁護士としては、大変助かっています。
第5 まとめ
その後、Aさんには無事に成年後見人が就任し、施設入所へ移行し、穏やかに生活されていると聞いています。
成年後見申立ては、裁判所への申立が必要ですので、弁護士のアドバイスを受けたほうがスムーズに進むと考えられます。
成年後見申立てについて知りたい方、申立てするかどうかで悩んでいる方は、お気軽に当事務所までご相談ください。



