目次
カスハラとは?
カスハラとは、カスタマーハラスメントの略称で、顧客からの要求内容、または、要求態度が社会通念に照らして著しく不相当であるクレームや顧客からの迷惑行為のことをいいます。正当な理由のあるクレームと違い、根拠のない言いがかりや一般の許容範囲を超えた過度な要求・主張ともいえます。
例えば、以下のような行為等がカスハラに当たる可能性があります。
・気に入らない職員に対し、人格など全てを否定するような辛辣な言葉を浴びせる
・利用料滞納分の支払いを求めると、「大したサービスもしていないくせに、一人前に請求するな」と逆切れをする
・コロナ禍の中で施設の訪問制限が長引いた後、久々に利用者と面会し「施設のせいでこんなに弱ってしまった」等と思い込みクレームをつける家族
・大きい声で怒鳴る、ものを投げる、叩く
・卑猥な言動を繰り返す(セクハラ)
カスハラが増加している原因とは?
厚生労働省は、ホームページに「介護現場におけるハラスメント対策」というページを設けて、マニュアルや手引き等を公開しており、ハラスメント対策に力を入れています。
このマニュアルによると、近年、介護現場では、利用者や家族等による介護職員への身体的暴力や精神的暴力、セクシュアルハラスメントなどが少なからず発生していることが様々な調査で明らかとなっていることが挙げられています。
具体的には、平成30年に行われた「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業」実態調査によれば、なんらかのハラスメントを受けたことがあると回答した職員の割合は、業態によって異なるものの、利用者からのハラスメントが4割から7割、利用者の家族等からのハラスメントが1割から3割であり、どの業態でもハラスメントを受けているという実態があります。
カスハラが増加している原因としては、利用者等の権利意識が高まっていることなどが要因として挙げられます。
介護現場での利用者からのカスタマーハラスメントの事例紹介
事例1:精神的暴力
特養のご入居者Aさん(85歳、軽度認知症)。いつも自分を最優先で対応してくれないと機嫌が悪くなる。職員が来るまでコールボタンを連打し、遅れて来た職員を罵倒する。
ご家族も入居者の言い分を真に受け、「ちゃんと対応してください」等と言ってくる。言われた職員は泣いてしまった。施設長が「他の入居者の対応もしなければならない」と事情を説明しても理解して頂けない。
事例2:家族からの過度な要求
特養に入所して3年になるA(90代、女性)の娘のBさんは、施設に対する要求や
指示が細かく、現場職員は都度振り回されていた。
職員の過去の不正確な発言を蒸し返し、重箱の隅を突くように攻め立てる行為が繰り返されていた予定していたサービス担当者会議を、当日になって一方的にドタキャンした。
医師の診断や処方も信用せず、独自の見解で「肺の検査が必要」「この薬を絶対飲ませてほしい」等と要求してくる。
利用者からのカスタマーハラスメントの中には、認知症等の病気または障害の症状として表れる言動(BPSD:認知症の行動症状(暴力、暴言、徘徊、拒絶、不潔行為等)・心理症状(抑うつ、不安、幻覚、妄想、睡眠傷害等)のこと)もあり得るため、その場合には医療的なケアが必要となります。
しかし、実際に利用者に対応している職員にとっては、利用者の行為がハラスメントであろうとBPSDであろうと、心身が疲弊してしまい、追い詰められる状況は同じですので、施設側としては対処が必要です。
介護施設の経営者・施設長が具体的に取り組むべきカスタマーハラスメント対策
上記のようなカスタマーハラスメントへの対応については、職員個々人の対応に任せてしまうことはお勧めできません。なぜなら、カスハラに対する受け止め方や対応の巧拙に職員の個人差があるためです。そのため、個々人に任せたままだと、結果的に事業所側としてリスクを抱えたままの経営となってしまいます。事業所内でのカスハラに対する対応方針や方法を明確にしておくことで、従業員の安心感にもつながりますので、下記のような対応を行うことが理想的です。
⑴ 事業所内でのマニュアル作成と研修(現場職員・管理職向けの研修)
当然のことですが、現場職員の生命・身体の安全や名誉感情等の人権も守られなければなりません。認知症の利用者がすることだからといって、相談を受けた管理者が「体を触られるのもこの仕事のうち」等と述べるようではダメです。
「ハラスメントはいかなる場合も本来許されないことであり、職員を雇用する法人は全ての職員を守る」という姿勢を明確に打ち出し、職員に安心してもらうことが第一歩となります。
その上で、前述のようなハラスメントに関する知識、事件が起きたときの対処法等を、初めは大まかでよいのでマニュアルとして定めたほうが良いです。そのうえで、基本的な対応方針を共有します。
また、職員向け研修、管理職向け研修を行うことで、業務や役職に応じた認識、対応策学んでもらうことが可能となります。
⑵ 職員向け相談窓口の設置
いくら指針やマニュアルが完璧でも、現実に起きる事件を管理職側が把握しなければ意味がありません。トラブルや問題は現場で起きるものであり、そのトラブルが小さいうちに対処できるように、早い段階での報告・相談がしやすい体制を作ることが大切です。そのため、職員向け相談窓口の設置を検討してみることも良いと考えられます。
例えば、口頭では相談しにくいということがあれば、ライン等のSNSで相談を受け付けることも良い方法です。