【裁判例解説】介護現場のカスタマーハラスメント関連の判決

こんにちは、弁護士の小泉です。突然ですが、皆様の施設・事業所で「カスハラ」の問題でお困りではありませんか?

近年、介護業界において「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」が深刻な問題となっています。利用者やその家族からの暴言、理不尽な要求、長時間の拘束などは、現場職員の心身を疲弊させるだけでなく、離職の大きな要因ともなっています。

これまで、介護現場では「利用者や家族の不満に寄り添うのが仕事」という意識が強く、多少の無理難題も現場の我慢で解決しようとする傾向がありました。しかし、令和3年7月8日、東京地方裁判所において、行き過ぎた家族の言動を理由とした「契約解除」の有効性を認め、さらに1,200万円を超える多額の損害賠償を命じる判決が下されました。本稿では、この事案を深掘りし、施設側が法的に守られるためのポイントを解説します。

1 事案の概要

本件は、有料老人ホームに入居している利用者の家族による執拗なハラスメントが問題となったケースです。

⑴ カスハラの内容 

利用者家族は、職員に対して、「馬鹿野郎」,「お前なんかやめちまえ」,「○○なのに,何の提案もできないナースは辞めろ,いる意味がない」,「あんなくそナース,辞めちまえ」「あんなのクビだろ」「俺が指示しなきゃなんの提案もできない施設か」「医師の指示,医師の指示って,何もしねえ○○かよ」「夜間ほぼほぼ何もやってねえよ」「何が忙しいだよ,ほんと酷い施設だな」,「刑事裁判を起こす」,「裁判の勝ち負けが問題ではなく,訴えを起こすことが大切」,「看護職員より免許を奪う方法はあるのか」,「ここを出ていく時はスタッフを個人名で訴える」などの暴言,脅迫をしていた。

また、ホーム長を「エンドウ豆,チビ」,その他の職員を「デブ」や「ハゲ」などと,人格否定や侮辱等の意味合いを持つ呼び方をしていた。

このように、家族は施設のケアに不満があるとして、職員に対し連日のようにクレームを繰り返しました。

⑵ 施設側の対応と契約解除

施設側はこれに対し、現場任せにせず、組織として対応しました。家族に対し、言動の是正を求める注意・警告の書面を送付しました。しかし、家族側の態度は改善されず、施設側は最終的に「信頼関係が破壊され、契約の継続は不可能」として利用契約を解除しました。これに対し、家族は、老人ホーム利用契約を解除された後も,利用者を当該老人ホームから退去させなかったため、施設側が利用者家族に対して契約解除後の損害賠償を求めたのが、本事案の経緯です。

2 判決のポイント

⑴ 解除を認めた理由

裁判所は、利用者家族の対応の問題点を私的し、施設側の契約解除を全面的に有効と認めました。

 具体的には、以下の行為等があったと判断しました。

  • ① 他の利用者の生活や原告による他の利用者に対するサービスの提供に著しく悪影響を及ぼす言動
  • ② 他の利用者又は原告の従業員の心身又は生命に危害を及ぼす行為
  • ③ 本件ホーム又は本件ホームの周辺において,著しく粗野若しくは乱暴な言動を行い,又は威勢を示すことにより,他の利用者,付近の住民,通行人又は原告の従業員に不安を覚えさせる行為

このような理由から、原告と被告との間の信頼関係を修復不可能な程度にまで破壊したと認められる、と判断しています。

⑵ 異例の高額賠償の内訳

本判決で特筆すべきは、家族側に命じられた1,200万円超という賠償額です。

これは、本件契約終了後の施設利用料について、日額約2万円という契約の定めがあったものの、利用者家族が長期間にわたり、利用者を退去させなかったことが理由となっています。

3 弁護士の視点:施設が備えるべき「護身術」

この事案で施設側が勝訴できた最大の要因は、「記録」と「手順」にあります。

⑴ 「記録」の徹底

いつ、誰が、どのような暴言を吐いたか、何時間拘束されたかを詳細に記録し、録音データ等も確保していました。

⑵ 「段階的」な対応

いきなり解除するのではなく、書面による「是正勧告」を複数回行い、改善の機会を与えたという事実が、裁判所における「信頼関係破壊」の認定を強固なものにしました。

⑶ 「組織的」な決断

現場の職員個人に謝罪させて終わらせるのではなく、法人として毅然とした態度(書面通知)を行いました。

4 おわりに

2026年10月には、すべての企業においてカスタマーハラスメント対策が法的に義務化されます。介護現場においても、これまでの「耐える文化」を脱却し、職員の安全と他の利用者の生活を守るための組織的な体制整備が不可欠です。

当事務所では、カスハラ対応マニュアルの作成から、悪質な事案における警告書の作成、契約解除のコンサルティングまで、介護施設の皆様をバックアップいたします。少しでも不安を感じる事案があれば、深刻化する前に、ぜひ当事務所までご相談ください。

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